大峰 ベニバナヤマシャクヤクの観音峰 ’17.6.14

 梅雨の最中なのに、思いもよらぬこんなに晴れた青空の一日となった観音峰へ向かった。橿原神宮前駅で九州からの御一行様のバスにピックアップしていただいて観音峰へのご案内である。空梅雨の今年の6月とはいえ、「皆様の日ごろの行いのお蔭です」とまずは山日和となった感謝の御礼であった。

 バスの車窓からはマタタビやウツギの真っ盛りの中、本日の出合えるであろう花々の紹介からで、九州の山域ではほとんど見られないために、初めてご覧いただく希少種のベニバナヤマシャクヤクの解説で、お客様のテンションアップであった。。

 やがて、バスは天川川合から虻トンネルを出るとすぐに観音峰登山口(Ca770)であった。トイレ、ストレッチを済ませてすぐにちょっと揺れる吊り橋である。ミタライ溪谷が綺麗な流れを見せていた。ミタライ溪谷の遊歩道を交差して北向きに上がれば、すぐにフタリシズカが一斉に顔見世であった。この花ばかりが最後まで見られたのは驚きの一語であったのだ。そして、フタリシズカそればかりでなく、サワギクが咲き、ガクウツギもチラホラと咲いている。それに進めば淡い紫色がかったものから薄い色あいなどの優しい花を咲かせるコアジサイが見んなを喜ばせてくれる。

 林床には秋花のホトトギスの葉がいくらでも続いている。その内にササユリの幼葉がこれまたいくらでも目に入るも、いくら進んでもせいぜい蕾ができたところくらいで、開花までには至らない。そうこうしているうちに大き目なササユリの蕾で喜んだいる。さらに進めば「あの奥に咲いている花はなんですか・・?」と興奮気味のWさんの声だった。

 すぐにバッくして見れば、なんと丁度いまが盛りのラン科の『ジガバチソウ』二株であったのだ。斜面やや上のために写真は撮りずらかったのだが、一斉に皆さんの写真タイムとなった。最も、この花は咲く場所がやや薄暗くなかなかピントが合いづらいだろうから、その点では気の毒ではあったが致し方ない。

 「この花はラン科のクモキリソウ属のために、ひょっとしてクモキリソウも咲いているかもしれないですよ、ポイントはその葉のふちが波打つ感じで、この花と同じように二枚葉の中から茎が立っていることですよ」等と言って、「一人ではなかなか探せないが、多くの目であれば探しやすいので、一緒に探してくださいね」と植物観察の極意を話しながら、楽しんでいただくことにしょう。もっとも、みんなで探していただいたクモキリソウだが、結局は最後まで目にすることはかなわなかった。

 前半はほとんどお客様への説明ばかりで、こちらでの写真撮影はままならなかったために、珍しい「ジカバチソウ」などの写真は得られなかったことから、以前に見たこちらでご覧いただこう。そして願わくば、観音峰のラン科の花たちが無作法な登山者の盗掘等の手に遭わないことを念じよう。

 さらに上がれば、蕾をつけた花が出てきたが、とっさにど忘れで、名前が出てこない。「この頃、田中のコンピューターも錆びついて困ったものです、以前はど忘れも3分歩けば思い出したのですが、最近はなかなか判明しずらいです、すいませんね~」と笑ってごまかしている自分がいたのだ。笑・汗

 このど忘れは結果的には辛うじて帰りのバスの中で、あれはなんだったのかな・・と考える始末だったのだ。「ようやく思い出しました、登りの途中でど忘れしてた花はタカノツメやコシアブラの仲間のウコギ科のトチバニンジンという花で、トチノキの葉に似ていることからの名なんです。秋になれば果実が赤くなって面白い実がつき、山歩きの中で出会えば決まって声の出る種なんです」等と説明するのであった。

 だが、眠っておられる皆さん歩き疲れのようで、「エ~、どんな花だったかなぁ・・」との声が出るくらいであり、その蕾状態の様子が思い出せないようだった。なお、この花も撮れなかったので、こちら↓画像も以前6/5に他の山で撮ったものをご覧いただこう。

 
トチバニンジン(ウコギ科トチバニンジン属) 

 ところで、観音峰といえば花の山として、つとに有名であるばかりでなく、南北朝時代の歴史的な話題が知られるところでもある。道々に立派な説明書きの碑が置かれているので、皆さんもやはり関心を示されるのだ。そのようなことから、長々ととはいかないまでも、かいつまんで第96代の後醍醐天皇さんにまつわる話を観音平ではかかせない。それに「後醍醐天皇の皇子である大塔宮護良(もりなが)親王等の隠棲された『観音の岩屋』などもこの上にあり、親王へのお歌石も置かれています」等の話を聞いてもらうのであった。

 観音平からやや急登となってきたが、いよいよベニバナヤマシャクヤクが見られると言えば、皆さん元気に歩いてもらえた。出ました、青空が広がる大きな尖った岩が置かれる観音峰展望台(Ca1208)だ。そして、競争で皆さんにベニバナヤマシャクヤクの写真撮影をゆっくりと楽しんでいただこう。
 バス内で事前説明のように、大群落とまではいかないのだが、東側のススキの野原に10株くらいは咲いていただろうか。しかし、西側にはしっかり新しいロープでハイカーが入られないように貼られていたのだが、残念ながら、ほとんどその中には、紅色の花は目に入ることがなかったのが残念至極であった。

 そうこうしているとお客様の手へ「あたりに切られたこの花は何ですか」、との花は「それがバス内で解説していたジキタリスという帰化植物ですよ。その花は日本の野生種を駆逐する有毒種で、この花を見つけた人たちが、ちぎって捨てているのです」と話すも、あまりに綺麗な花のために、すぐに放り投げるのがしのびないような顔つきであった。そう花好き人はやっぱり花は可愛らしい・・その仕草の優しい方とご一緒できたのが嬉しく思えた。

 なお、ベニバナヤマシャクヤクの白花を咲かせるものは『シロバナベニバナヤマシャクヤク』と呼ばれているのだが、参考までにこちらからご覧いただけます。

         
    満開のベニバナヤマシャクヤク     

 ベニバナヤマシャクヤク鑑賞のあとは、東側にゆったりと稜線を引いている大峰山系の大展望がくっきりと広がっている景色が誰の目にも飛び込んでくるのであった。早めの食事をとりながら「何度も来ている私は、これだけの快晴のなかでの大パノラマは初めてです。それを初の観音峰へやってきた皆さんが見られるのは幸せ者ですヨ、いやいや、きっと精進者ばかりだから当たり前なんでしょうかネ・・?」、と笑って山座同定を始めよう。 

 こちらもほんとうに快晴の中の観音峰が、久しぶりのために興奮気味である。「左から山上ケ岳に大日岳に稲村ケ岳です。鉄山、弥山に奥に八経ケ岳、右に頂仙岳、いずれもそれらの頂は踏んでいますが、いい山ばかりであったことが思い出されました・・」、とよどみなく続くのであるが、こんな快晴の中の山並みの解説ができるのが嬉しく気分高揚が自分でも十分に感じられるのであった。

 
稲村ケ岳をバックに咲き誇る 

 もちろん、この展望台の花はベニバナヤマシャクヤクだけではない。なんといっても、どなたでもがウマノアシガタと見まがうのだが、どうも葉の雰囲気がウアマノアシガタらしく感じない、ひょっとして近縁種のヒキノカサではないのか。そうであればこの種が見られたこと自体が珍しいのだが・・。他にヒヨクソウが最近は増え気味のように感じた。そして黄色花はキジムシロ(小葉が5~9個)ではなく、三小葉のミツバツチグリかな、それなら花を真上から見下ろせば、花弁の間から萼が星形に見えるハズだ。しかし、よくよく見れば花弁と花弁の間が空いていたことから『テリハキンバイ』と思われるバラ科キジムシロ属の花が咲いていた。(せっかく撮ったものはピンボケ・・笑)、もちろん他にニガナはどこにでも咲く。

     
 ヒキノカサ(キンポウゲ科同属)    ヒヨクソウ(オオバコ科クワガタソウ属)

 さぁ、観音峰展望台はこれくらいで辞し、観音峰(P1347.4)から三ツ塚(Ca1380)へと歩こう。これらの稜線漫歩は爽やかな涼風の木陰の中が続き皆さんにはたいそう喜んでいただけたようだ。最初のほうではカマツカが果実化となっていたが、進むにしたがって標高が上がりまだまだ残り花があちこちで見られた。いろいろと樹の謂れなどもお聞きいただく。

 それに引き換え、足元には小さな花々が繰り返し出てきた。中にはまだまだ蕾ではあったが、イチヤクソウも見つけ、ミヤマムグラやクルマムグラが咲いていた。なんといってもヤマシャクヤクがしっかりと果実となって見せてくれ、展望台で食事中に花の同定ポイントについて、ベニバナヤマシャクヤクと単なるヤマシャクヤクの区分点等を解説したのだが、お客さんにベニバナヤマショクヤクとの花柱を中心とした相違点を確認していただくこともできた。

 さらにタニギキョウがまだ咲いており、ミヤマハコベまでも満開で群生していた。それにハシリドコロの果実の始まりも見てもらうことができ、この花はトリカブトに次ぐ猛毒のために、間違って食べると所かまわず走り回って苦しむことからの謂れなども楽しく聞いていただけた。

 ところで、開花時期ではあるのだが、花はついていなかったがまだ先だろうか。そのタチシオデがいっぱい見られ、女性陣ばかりのために食べられる話をすれば喜ばれることを知っているため、「日本のアスパラ」ともいわれるシオデとの相違点なども話すことができた。もちろんタチシオデも食可能であるのだ。また、比較的珍しい種でもあるツツジ科のシロドウダンも咲き初めに出会え写真も撮っていただけた。

 三ツ塚を過ぎて半時間ほど進めば、初めてロープ場があるちょっとした短い岩ごつ地であるが、これもなんなく降りていただいた。もちろん、針葉樹で唯一紅葉することで知られるカラマツの新葉が綺麗に広がっているのも見ていただけた。その後の最後の急登をやっつければ、後は急な坂道を下って法力峠へ降りるのみである。

 ここで、降る前に「山歩きの中での事故はほとんどが後半の下り道で起きます。わたしも大勢のお客様の下り道でのアクシデントの苦い経験をしています。しっかり歩くことに集中して、この間だけはおしゃべりは我慢し、慎重に歩きましょう。それにストックを長めにすることも注意点です」、と話して気を引き締めることも忘れない。そうしてどうにか上手く歩いていただき、稲村ケ岳への分岐点でもある法力峠到着であった。

 これより、まだまだ長い道のりであったが、この間もいろいろな花などを見ていただこう。それらはウリノキやサルナシなどの蕾群である。また、来るたびに年々成長著しく大きくなっているヤハズアジサイも珍しい種であろうが蕾が膨らむ個体も見られた。また、ヤマアジサイの蕾も多くあり、今回の登り始めの一帯ではきれいなブルーの色あいで満開であったコアジサイが、こちらでは日陰の関係からかすべてが蕾一様で広がっていた。

         
ウリノキ(ミズキ科ウリノキ属)    ヤハズアジサイ(アジサイ科同属)     ヤマアジサイ(アジサイ科同属)

 それに、葉の姿がハート型の夏の花で、アジサイの仲間でもあるギンバイソウも珍しい種であり、また、クロモジはどなたでも知っておられるのだが、葉が一目でクロモジよりもずっと大きいと分かるウスゲクロモジなどや、満開のミズともいわれて東北地方では野菜がわりに食べられているとのウワバミソウが咲き誇っていた。そばには花の終わったフタバアオイの葉が広ろがっていた。

     
 ギンバイソウ(アジサイ科ギンバイソウ属)    ウワバミソウ(イラクサ科ウワバミソウ属)

 沢山の花々をご覧いただいて、後は五代松鍾乳洞経由で洞川の稲村ケ岳登山口への下山予定であったのだが、大阪南港からの乗船のために、大阪市内の交通渋滞等を考え、少しでも早く下山したいとのことから、母公堂へと下山してゴロゴロ水地まで車道歩きとしバス乗車とした。これで余裕もっての乗船となることだろうと、皆様とは橿原神宮前でお別れとなったのである。

 ご参加の皆さま、大変お疲れ様でした。でも、素晴らしい山日和でのベニバナヤマシャクヤクの観音峰をご堪能いただけたものと思います。これからもお元気でせいぜい花歩きを続けてください。またの機会にお会いしましょう。ありがとうございました。

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