比良山麓に咲く花 ’17.6.22


 今年もクモキリソウの時期となったので出かけよう。もちろん、他にもコクラン、オオバノトンボソウの様子や、イチヤクソウが久しぶりに咲いてくれそうだからと今回は楽しみは多い。それに個体数が激減しているヒナギキョウも咲いているだろう。

 まずはクモキリソウだが、やや向かうのが遅かったようでほとんどが残り花となっていたのが惜しい。

         
 萼片側花弁は約8mmで細く管状   ラン科クモキリソウ属 クモキリソウ     花茎の高さは10~20cm
  唇弁は前に上から下へそり返る          花は淡緑色で5~15つける 
 
 葉は二枚でふちは細かく波打つ


 次にコクランだが、こちらもクモキリソウの仲間であっても花期がやや遅く、やっぱり蕾膨らむ程度であって、満開は後しばらくとなろう。

     
 二枚の葉から斜上は去年の茎   1個体のみ蕾膨らみ他は蕾もまだなし 


 オオバノトンボソウはラン科ツレサギソウ属であるが、別名ノヤマノトンボソウといわれるように里山や山登りの登山口あたりの林内に生えるランであり、新葉の展開時には多くの一枚葉が顔を出すのだが、葉が大きく成長するに従い、鹿の目にはいってほとんどが食べつくされる種であろう。今回も芽だしを10個以上は確認していたが、本日は目立ちにくい場所に3個体しか残っていなかったが、この後はこれとても鹿の食害を免れるのは容易ではなかろう。加えて盗掘に及ぶ心配もありそうなために、開花を目にできる登山者はよほど精進のよい者にしか出会うことにはならないだろう。。

 
オオバノトンボソウ 


 さて、こちらは野の花であるが、キキョウ科ヒナギキョウ属のヒナギキョウは限られたところでしか出会ったことはない。咲くのは自然が残る日当たりのよい草刈りがきれいにされた農道、芝生、原野あたりで、今回は登山口前の途中で見かけた。

     
まれに枝分かれもあるが上に花一つ  ヒナギキョウの背高は20~40cmとなる  根生葉はヘラ型 
左の茶褐色は花の終わった後  が、ここでは小さく5~10cmで咲いていた   上部の葉は線状被針形

 * 近縁種で外来種のキキョウソウ(別名ダンダンギキョウ)が昨今どこでも蔓延して、自然種のヒナギキョウを脅かしているのが憂いでもある。別名のとおり段々に花を多数つけるのが特徴

もうひとつ、キキョウソウその仲間のやはり帰化植物のヒナキキョウソウもあるのだが、こちらはキキョウソウほど蔓延してはなさそう。こちらは上に花一つ咲き、段々には閉鎖花をつけるのが特徴


 ツツジ科イチヤクソウは以前はイチヤクソウ科であったのだが、現在のAPG植物分類体系ではツツジ科に含められた。そのイチヤクソウが珍しく咲いてくれそうと出かけたが、何とか盗掘も免れて咲いてはいたが、やや終盤となっていた。

 前にも書いているのだが、こちらやウメガサソウたちは半寄生植物のために、花の移し替えや、盗掘して持ち帰っても花は生きられないことを知っていただきたい。それでなくとも葉も斑入りで目立つために、どうしても花もない時期から盗掘に出会ったことを目にしたのは度重なるのだが、盗掘だけは許せない。

 なお、イチヤクソウは一薬草というくらいだから、鹿も食べないのだ。この種は葉の液汁が切り傷・虫さされに効くといわれている。また、全草を干したものを鹿蹄草(ろくていそう)と呼ばれ、煎んじて脚気やむくみの利尿薬とするようだ。このような話題を知るだけにして写真だけにしよう。

     
ツツジ科イチヤクソウ属 イチヤクソウは個体数を激減させている種と知ろう!

 

 最後に木本類で、こちらの山域で初見の二つを見よう。まずはブドウ科ブドウ属の仲間のアマヅルである。なお、アマヅルに酷似するサンカクヅルはこちらのページでご覧ください。

         
アマヅル普通三角状だが、変化が多い    つる性で葉と対生でつるや花をつける   両面とも光沢あり、葉裏の脈腋に赤褐色
あたりに高木なく、地を這うような姿    アマヅルの幼木では3~5裂し易いので注意    のクモ毛がある。鋸歯の間は山形と高い


 続いて、ヤナギ科ヤマナラシ属のヤマナラシだ。この種は図鑑によれば「日当たりのよい山野にふつうに見られる」とあるのだが、その生育地に出会ったのは、長い山歩きの中でもようやく四か所目である。別名はハコヤナギだが、その謂われはどうやら材から箱を作ったことから箱柳としたのだろう。それより本名のヤマナラシの謂れだが、葉がびっしりと多くつき、微風でも葉がそよそよと揺れて、さわさわと音をたてることから山鳴らしの名がついたとある。それに、このヤマナラシは「日本のポプラ」ともいわれる一つでもあるのだ。あの北大のポプラ並木だ・・。

 

     
花は3月で葉の展開前に咲くので、ここでも来春の開花を待ちたい 

 * 樹木の中でヤナギ科は樹肌での同定がなかなか容易ではない科なのだが、花の咲かない時期でも年中同定可能な数少ない種であるのだ。それは樹皮に米国のトランプでなく(笑)、ダイヤの皮目が目立つのが同定ポイントであろう。

 ところで、ヤナギ科は全国に数えきれないほど多数の種がある大きな科である。でも、ヤナギ科の花が総体的に大木で見にくく、目にしても地味なことから比較的遠ざけやすい科でもある。そんな風に思っているわたしだが、そうはいってもこのハコヤナギを知ってから何十年にもなるのだが、ヤマナラシ属と同じ属のドロノキの大木に出会った白山登山口の一つでもある市ノ瀬や、南アの甲斐駒千丈ケ岳の登山口である北沢峠のドロノキの大木も忘れられない想い出の地であるのだ。
 遠くからやって来て、「これから高山に登るのだ!」、と百名山をまだまだやり始めたばかりの不安な気持ちの方多しの皆さんへ、この大木の下に集まって、「人間一人一人は小さな者です。でも、これから3000m級の登山の始まりです。どうです、何百年も生きてきたこのドロノキを見てどう思いますか、これからの登山を心配するのでなく、これだけの数でワンパーティーを組んで登るのです。この木のように心大きく、自信をもって高山にチャレンジしましょう!」と、そのドロノキの解説を加えながら、皆さんの顔色を見れば「よし、この後の登山を頑張ってやろう!」との感じが読み取れたのであったのが昨日のように思い出された。そんな山中の雰囲気がヤマナラシを通して今でも忘れられない・・。

 さて、最後に突然ですが、山歩きの中で「山野草はそれなりに好きだけども、木本類はどうも・・」と声をよく聞くのだが、野草類は花期だけが楽しみの対象となってフィールドでの楽しみが限られるのではなかろうか。その点、木本類は樹木の花はもちろん、葉、幹、紅葉、冬芽等、年間を通して山歩きの中で自然観察の対象となることから、山の楽しみの一つに加えられることで、いつまでも健康増進の糧となること請け合いであろう。関心のない方は是非心入れ替えられることを奨めたい。

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