比叡山に咲く花 ’18.12.2 曇

 さすがにこの時期ともなれば花は見られなかったために木本類中心の自然観察となった。しかながら、本日のお目当てであったのは、前回に出会っていたマツブサの果実のその後の様相確認だったのだが、二ケ月もたてばあたりの木々の姿はすっかり変わっており、時間をかけてここぞという所を探し回るも、残念ながら見つけることはままならなかったのが悔やまれた。果実のついたマツブサは初見のために来春には必ずや探したいものだ。

 ならばと方向転換である。それはこの夏の炎天下にこれまた初めて見かけたイヌガヤの果実だったが、こちらはその個体そのものは見つけられたが、台風で倒木多しの被害を受けていた付近であったために、肝心のその実はもう跡形もなかった。そのようなことから今回は針葉樹の4種を観察してみることとした。

 もちろん、針葉樹にはスギ科、ヒノキ科初めいろいろあるのだが、今回はイチイ科のカヤ属、イヌガヤ属、そしてマツ科のツガ属にモミ属が見られたことから、これらの相違点等をルーペを使いながら観察が楽しめたので取り上げたい。このイチイ科は針葉樹のほとんどが雌雄同株である中において、珍しく雌雄別株なのは知っておきたい。その点から雌花とか果実をそれらのどの木でも見られる訳ではないために、果実類に出会える機会はそう多くはなさそうだ。 

  科名  名前   花期 葉の長さ  葉裏  葉先等 果実   樹の高さ
 1 イチイ科カヤ属  カヤ 5月頃  約2cm  狭い気孔帯2本 先鋭く尖り握ると痛い 2~4cmの楕円形で翌年9月に熟し緑色のままで落下する 25mと高木
 2 イチイ科イヌガヤ属  イヌガヤ  3~4月  3~5cm  白い気孔帯2本  カヤほど痛くない  2~2.5cmの卵形、初め緑色、翌年9~10月に紅紫色に熟す 5mほどと低い
 3 マツ科ツガ属  ツガ  4~6月 1~2cm 白い気孔帯2本が目立つ へこむも尖らない 2~3cmの楕円形から卵形、熟すと果柄は曲がる 20mと大木へ
 4  マツ科モミ属  モミ  5月頃 2~3cm 特徴はなく、握れば痛い 2裂し針状に鋭く尖る 6~10cmで直径3cmの円柱形が大きい、約3年に一度開花結実 25mと大木に


 1、カヤだが、この種はフィールドで素手で葉を握れば、「思わず痛い!・・」と叫んでしまうほどなのが素人目の判断時の特徴だろうか。葉の裏の白い気孔帯は仲間の中では特に一番細いのも特徴だろう。

     
 カヤ(葉表以下同じ) 同左(葉裏以下同じ)


 2、イヌガヤは触っても、カヤほど痛くはないがこれが特徴ではなさそう。痛くない特徴では次の3の方がまったく痛くないものがあるためだ。ではこの特徴は葉の長さが5cmほどと一番長くなることだ。裏の白い気孔帯の太さはポイントにはならない。他の特徴としては木の高さが5mほどと低いことも見分けやすい点だ。もっとも、日本海側の山域ではこのイヌガヤの変種であるハイイヌガヤという種もあるから、木の高さの点では要注意ではあるが、比叡山では変種は確認はできていない。

     
 イヌガヤ 


 3、ツガは低山帯に分布し、亜高山帯以上にはコメツガある。しかし、京滋ではツガしかみないだろう。でもツガそのものでもそんなにモミほど個体数は多くはないだろう。近畿圏でもツガそのものを見ているハイカーはもちろん多くはなさそうだが、その原因は高木のせいだろうが・・。

 さて、同定ポイントだが、出会えるのに機会の少ない種だが、目の前に現れたツガだろうと思える針葉樹が現われたら、まずは素手で葉を握ってみることだ。カヤやイヌガヤにハイイヌガヤもちろん、次の4番モミなどとは違い、葉先が尖らずまったく痛くはないのが多きな特徴である。理由は葉先が凹み気味で丸っぽいからなのだ。葉裏まで確認の用はない。

     
 ツガ 


 4、モミはハイカーの方々でも案外知られているようで、わたしの経験では同行者が「モミ・・?、カヤ・・のどっち?」などとの質問はほとんど経験がない。杉や檜ならいざ知らず、山登りの人たちだ、松とともにモミも知名度が高いのだろう。さて、そうは言っても、もしご存じない方々のために、素人判断での同定ポイントだが、今回取り上げた4種の中では圧倒的に個体数が多いのがよく知られている原因だろう。特徴はカヤ以上に素手で力を入れて握ってしまうと流血を見かねない笑。
 それほど葉先の鋭さがあることだから、その点では山中で特に注意であることを知っておこう。

     
 モミ 


 さて、針葉樹はこれくらいにして、山野草だがキッコウハグマの開花時にこちらへやって来れなかったのだがそれは来秋としたい。この種の花は今年は別山域でたっぷり見られたことからよしとしよう。近くには年が明ければ早々に開花してくれるバイカオウレンの大群生も楽しみである。

         
 キッコウハグマの閉鎖花  左の名は亀の甲羅に見立てた謂れ  一番左をアップで    バイカオウレンが来春のスタンバイ・・


 歩き回っていると、イケマの実が枯れ木となった倒木の周りに下がっていた。この果実もガガイモ、テイカカズラ、キジョランなどと同じような命の永らえ型の戦略を持っている。見ればもう少しで種髪をつけた種が風に乗って旅に出るのだろう。どこかでこれらの種の旅立ちを見送りたいものだがさぁどうなることやら・・?。

 ウバユリの140cmもある立派な果実跡が突っ立っていた。上から覗いて見れば、こちらはもう種はすべて旅立った後だった。人それぞれ、イヤ、花ももちろんそれぞれの時が流れている。

     
 イケマの果実長さ10cmすぐに種髪が出そう    ウバユリももう種は飛んだ後か


 冬芽観察はこれからとなろう・・。こちらの木はおそらく植栽だろうが、イヌツゲではなくホンツゲの冬芽が見られた。もちろん、わたしは自生のホンツゲの開花は、鈴鹿の花の山である藤原岳で何度も多くの花好きハイカーを案内し、そこで喜々として皆さんに「この木はどちらでも見られるイヌツゲではないですよ、ホンツゲのお花ですよ!」と、くどいほどイヌツゲではないことを説明した忘れられない思い出の樹種である。来春こそ、この木の花を撮ってアップしたいものだ。

 二番手の冬芽はアブラチャンの花芽が方々で見られた。早春に黄色花を咲かせて、寒空の下でハイカーを喜ばせるアブラチャンは早春の女王的存在だろう。もちろん、早春の黄色花といえばその近縁種でもあるダンコウバイも同じ扱いとなるのだが、こちらでは個体数はアブラチャンに軍配が上がるようだ・・。

     
 ホンツゲの冬芽(花芽)    アブラチャンも花芽

 本日のお気に入りの紅葉の彩り

       
 サンカクヅルの紅葉が目立ち 実が美味しいナツハゼの色彩  しっとりとウリカエデの黄葉  コアジサイは鋸歯が目を引き


 
堂々たるコナラの紅葉が君臨 

10/2ミカエリソウ・マツブサ ホームヘ








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