比叡山に咲く花 ’19.3.20 晴

 今日はお天気で4月下旬のような暖かい一日となろうとの予報につられ、朝方急に気が変わり当初予定の雪の無くなった比良を止めて、「比叡山ならもう何か咲いてるだろう・・?」と、ゆっくり目のスタートとした。ところが、このドタ変が大当たりの一日となったのだ。
 それは歩き始めて小一時間もしないで、木陰の中で一休みの中のうら若き女性三人組に追いついた。「エ~、○○さん本人じゃないの・・?、わたしはTですヨ」といわれてもこちらはその方の名は覚えてない、「今日は花好き三人で比叡山の早春花を楽しもうとやってきたのヨ」と言われるではないか。これはビックリポンだった。
 聞けば、「何言ってるのヨ、以前にご一緒したやないの!」とのことで、「エ~本当・・、どなたやったかいな~・・」と我ながら失礼な会話だった。帰宅後調べると4年近く前の’15.6.10にカキノハグサを見ようと比叡山の花の主に誘われ、参加した同行者5~6名の内のお一人だったようだ。その方の「さぁ、みんなこれからは○○さんとご一緒するのヨ、植物案内人だから楽しめるヨ」との声で、結局最後まで花好きな昔の乙女達・・?との珍道中となったのである。笑

 そんな運のいい出だしに引きつられて、その内に「今日はバイカオウレンが咲いてるといいナ~」と声を出すと、すぐさま「そんなどなたでもご存じの見慣れた花より、何か珍しい花が咲いてたらいいのにネ~」、とさすがに花好きメンバーの声に応えるかのように珍しい花が咲いていたのだ。それはユキノシタ科ネコノメソウ属の中でも近畿圏では特に珍しい希少種の「イワボタン」の咲き初めに出会えたのだ。

 
イワボタンは珍しいネコノメソウの仲間だが、花はこれからどんどん群れ咲くことだろう 

 イワボタンは花序同志がやや離れて見え萼裂片は黄色または黄緑色とのネット上の説明だが、この個体は薄黄緑色に見える。また、萼は斜開するとあるが、↑画像を見ると平開している。雄しべは4~8個で葯は黄色から橙色。このように個体によりわずかな姿の相違もあるようだ。目立つのは萼裂片より黄色い葯が飛び出ており、 葉は対生であるのだ。いずれにしてもこの仲間は地域による変異が激しく、正確な同定が困難な種だともネット上にある。

 さて、続いてはちょっとした花好きハイカーであればどなたでもご存じの花々がいろいろ見られた。オ~レンの仲間ではトップランナーのセリバオウレンが今年はこちらではいつになく多く咲いてくれてた。

     
セリバオウレン(キンポウゲ科オウレン属)左雄花、右雌花の雌雄異株 *1
     
ザゼンソウ(サトイモ科ザゼンソウ属)    エイザンカタバミ(カタバミ科カタバミ属)*2 
     
 バイカオウレン(キンポウゲ科オウレン属)*3   ツルアリドオシ(アカネ科ツルアリドオシ属)  果実

*1 セリバオウレンの仲間には他にオウレン、コセリバオウレンがある。区分点はセリの葉のように切れ込むものだが、その葉の出方である。セリバ・・が2回3出複葉、オウレンが1回3出複葉でコセリバオウレンが3回3出複葉と姿が変わるのだが、この葉そのものを目にしても初級者には容易ではなさそうだが、一度チャレンジされてはどうだろうか・・。笑

*2 エイザンカタバミは当山の僧侶間の花好きなの方々がそう呼ばれており、延暦寺らしい呼び名でもあるようだ。エイザンといえばエイザンスミレが当地では絶滅してしまったのだが、幸いにこのエイザンカタバミはまだまだこれから大群落の一大群生を見せてくれることを期待したい。

*3 バイカオウレンもエイザンバイカオウレンと言いたいほど多数咲き誇ってくれるのだが、昨今台風被害の連続で倒木等山地の整備の中においてどんどんブルによる群落地が浸食されているようで、その点では案じられる花であろう。

 
 さぁ、草本類はこれくらいにして木本類に移ろう。早咲きのメンバーである樹木の花もそろそろ開花が始まるようだった。もちろん、ニワトコはもう葉の展開も始まって、同じ緑色の花はもう終盤のようで、よく見ないと気が付かないほどだった。それにオオバヤシャブシ(↓画像3枚)も満開終盤のようであった。

         
蓬莱山バックにオオバヤシャブシ満開だ    花も雄花と雌花が咲き~ *    古い樹は黒っぽい幹肌が粗く剥がれ落ち目立つ 

:* オオバヤシャブシ(カバノキ科ハンノキ属)の仲間には他にヤシャブシ、ヒメヤシャブシとあるが、ヤシャブシそのものは西日本の太平洋側に多く分布し、日本海側で見られるのはオオバヤシャブシにヒメヤシャブシと言われるが、わたしもオオバヤシャブシとヒメヤシャブシしか見ていないし、もちろん今日見たのもオオバヤシャブシだった。なお、余談だが、ヒメヤシャブシは江戸時代に滋賀県で発見されたことが記録にあるようだ。
 さて、どうしてオオバヤシャブシだと分かったのかといえば、それは枝先から葉、雌花、雄花の順番につくのだ。そしてヤシャブシは逆で雄花、雌花で一番下が葉がつく。またヒメヤシャブシは雌花、雄花に一番下が葉となり、三種とも位置がことなるので、その部分が確実な同定ポイントとなる。
 わたし流の覚え方はオオ・・がハメオ、ヤシャ・・がオメハとなりヒメ・・はメオハと語呂合わせすればフィールドで助かるのだが・・。と説明し、3人に笑ってもらった。笑、しかし、実際はヒメ・・は名前らしく花はずっと雄花が細く下がるのが一目瞭然であり、ヤシャ・・、オオバ・・の二種より花の太さがずっと細っぽい。それに葉が細長く、三種の中では側脈が20対以上とより多くある点等で同定が一番早いのだが、今回はオオバ・・しか出会わなかった。


 次に早春には樹木花の早い種としてアブラチャンにダンコウバイの黄色花がハイカーには人気だ。今日もこの二種の違いの説明を聞いて頂きながら歩を進めた。クスノキ科は常緑樹と落葉樹の両方があり、有名なのはクスノキ、後者はクロモジだろうか。
 もちろん、アブラチャンとダンコウバイは落葉樹であり、厳密にはややダンコウバイの方が早く咲き、花もやや大きめに咲くとわたし的には見ている。今回も多くあった中の1本のダンコウバイのみが咲き初めとなって、他は両者共すべて蕾ほころぶ程度のようだった。

 ↓の画像上段がダンコウバイで下段がアブラチャンである。特にダンコウバイはやや離れていたために分かりずらく、アップの花もどの写真もボケばかりで、わたしの写真力は今さら断るまでもなく、デジも腕もボケっぱなしであることは語るに及ばないので、ご勘弁願いたい・・笑

     
 よ~く凝視しても分からない・・泣 ダンコウバイ   花のUpが同定ポイントなのに・・これも泣*↓へ 
     
 こちらは近かったので撮れたが・・アブラチャン   アブラチャンの花芽も来週には咲こう 

* 上記の二種の同定はまず葉ではダン・・が三浅裂といって独特な姿であり、アブラ・・の葉は単葉といって切れ込みもない普通の葉そのもので、葉での違いは幼稚園の子供でも分かってもらえる。しかし、問題は花期の同定だろう。それは上級者クラスだろうか。笑、でも、一寸この花の違いを判断するには相当容易ではない。それは花柄のあるのがアブラチャンで、花の柄がないのが今回咲き初めとなっていたダンコウバイである。「花柄ありアブラチャン」と覚えるようにされたら早い!
 この二種の早春の黄色花はこれから本番となるのだ。ハイカーの皆さん、是非むらむらっと大きく枝を広げて真黄色の花を見つけて、可能なかぎりそばに寄って花を手に取って見て、「さて、どっちだ!」と同定してみてくださいね。歩くだけでの楽しみはもうそろそろ卒業し、自然観察の楽しみにシフトされると、さらなる山歩きが楽しいこととなるでしょう・・・。笑

       
 櫛の本ツゲ開花、イヌツゲは6~7月と遅い   イヌガヤの蕾、カヤは5月と遅い  イワナシ(ツツジ科イワナシ属)*
       
キブシ咲く、ヤシャブシ等ともにお歯黒に利用    シキミ土葬時有毒を利用 墓周りに植えた   グミ科は実時から名がつき、ナワシログミ

* イワナシはツツジ科の一応木本類だが、花を見れば花好き人には超可愛らしく見え、ハイカーの方々の出会った瞬間のあの「お~イワナシだ!」との、花にはとうてい縁のないような大のおじさんでも、いい声が聞かれるほどのメチャ可愛い花だ。笑

 最後に果実類の役目を終えた姿等や一風変わった話も聞いていただこう。

     
ミツバウツギの実殻    ボタンヅルの実殻 
     
ヤマコウバシの葉は長く落ちない*1   フジのつるは左巻き・・*2 

*1 クスノキ科のヤマコウバシは観察会等では話題のつきない樹種である。まず、葉が冬を越しても落ちず、春に新葉の展開を待ってようやく落葉が始まる。ふだんの緑葉の時期にはほとんど目立たず、正月をすぎると途端にハイカーから、「あの枯れ葉がついてる木は何・・?」と声の出る木なのだ。要するに1~3月の間の頃には特に枯れ葉が目立つのである。

 また、その時季は世はどちらのご家庭でも受験シーズンでもあり受験生を持つ親御さんは家庭内での神経の使いようは大変な物であろう。神頼みの神社では葉が長く落ちないことから、「受験に落ちないように・・」と願いを込めて、御札として授与される人気の樹木なのである。子供さんやお孫さんの受験には是非ともこのお守りを、合格の願いをこめてプレゼントしてあげたら如何だろうか。

 さらに、ヤマコウバシの話題のひとつにクスノキ科クロモジ属の中で、唯一ヤマコウバシの葉と花が一緒に入る混芽である点も珍しい。また、本来、雌雄別株なのだが、日本では雌株だけしか見つかっていないといわれる。要するに雄花もないのに雌花だけで実ができ、秋には黒っぽい色で熟す、なんともミステリアスな樹種なのである。その不思議は研究者の間でもいまだに答えは出ていないらしい。

*2 植物にはつる性の樹々が多い。フジももちろんつる性だ。仲間には他にヤマフジにナツフジがあるが、ヤマフジだけが右巻きで、フジなど二つは左巻きだといわれる。また、フジとヤマフジ二種の果実の表面には短毛が密生するが、ナツフジの実の表面には毛がないのが特徴である。このようにつる性の樹々を見ればそのつるの進み具合を観察する楽しみの一つとなろう。どっちにしてもマメ科のフジ属、ナツフジ属では都合三種のためにこれくらいの比較ならそう頭が痛くはならないだろう・・。笑

 PS、アブラナ科の種の同定もセリ科と同じで見分け方は極めて難しいと話していた名は「タチタネツケバナ」だったが、肝心の写真がダメであり、昨年のものをご覧頂きたい。

 最後になりました。滋賀の花好きでそれぞれ植物知識もお持ちであるTさん、Nさん、Hさんの三人さん、お疲れ様でした。植物の花の話が通じる方とのご一緒はこんなに素晴らしいのだとつくづく思いながら、このような素敵な時間をもっておられる方なのだから、出来れば今後もご一緒に自然観察しながらの山歩きと花歩きを元気で続けていきたいものだなぁ・・と思う一日となりました。実に楽しい一日を過ごさせていただきありがとうございました。。

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